2009年11月03日

貧困の意味を理解もしない、説明もしないマスゴミと閣僚2

 3日前のエントリーに、ゆうくんパパ様からコメント(質問)を頂きました。
 回答が長くなるのと、データを示す必要性から、記事の形で回答させていただきます。

 ゆうくんパパ様のコメントは、以下のようなものでした。

貧困率は、おっしゃるように、いろいろの限界を持った「相対的な数値」でしかありません。だから、これだけで貧困や経済格差の状況を判断できないのは、当然です。しかし、これを軽視することも、誤りです。
(中略)
>日本より貧困率上位のメキシコ、トルコ、アメリカは、日本より所得格差が大きいと思います。日本のような「所得格差が小さいために貧困率が高い国」って、ほかにどこの国があるのでしょうか?他にも、そういう国がいくつもあるのでなければ、説明にはなりません。
(中略)
>日本の相対的貧困率は、2000年頃から2000年代半ば、つまり小泉政権下に低下しているたしかに、これは貧困者が減ったからではなく、中間層の所得が激減したために、貧困率の「見かけの改善」が起こったのです。このように、貧困率は「相対的」なものであるのはたしかです。しかし、中間層の所得低下は、2003年だけのことでなく、97年からずっと続いていることです。それにもかかわらず、貧困率は増えている。つまり、貧困層の所得はもっと落ちているのです。「絶対的貧困」とは違いますが、少なくとも「貧困の絶対的増加」といっていいと思います。 貧困率を問題にしたからといって「社会主義だ」とかいって批判するのは、それこそ、ものごとの区別がついていないと笑われますよ。



 最初の問いは、SAPIO記事から引用した部分についてですね。
 できれば引用元に言って欲しい気もしますが…気になって調べたので、お答えします。

 OECDが調査した相対的貧困率のデータは、全部で30カ国ありました。ここで日本の最新の相対的貧困率(mid-2000sの欄)は14.9%、概ね14%以上の国を抽出したところ、8カ国ありました。

 次に所得格差ですが、まず、所得格差の指標にも色々ありますが、ここでは“ジニ係数”、”国連貧富比”を用いることとしましょう。
 ジニ係数は、0に近いほど格差が少ない状態で、1に近いほど格差が大きい状態であることを意味します。
 ここでは、0.3以下の国を抽出したところ、10カ国ありました。

 国連貧富比は、全世帯を所得の大きさで10ないし5階級に分類したときの、最富裕層と最貧困層の所得比(階層ごとの中央値所得)です。
 ここでは、貧富比10%の欄で10以下の国を、20%の欄で5以下の国を抽出し、それぞれ18カ国と12カ国ありました。

 結果、これだけでは相関関係が見えてきませんでした。
 つまり、所得格差が小さく、相対的貧困率も低い国もあるし、逆に所得格差が大きくても相対的貧困率が小さい国もあったのです。
 引用元にある増田氏が、どのような資料を揃えたのかは分かりませんが、日本は高度成長期から現在に至るまで、人口動態が大きく変化している上、北欧諸国などと比べ、世代間格差が大きいため、同世代での格差なども比較しないと、相関関係が見えてこないのかもしれません。

 結論としては、強いて言えば、アイルランド、韓国、ポーランドが「所得格差が小さいために貧困率が高い国」となりましたが、ちょっと説得力に欠けますね。今後、新しい資料を見つけたらUPさせていただきます。
(一覧表は後日公開します。)
 公開しました。↓
貧困の意味を理解もしない、説明もしないマスゴミと閣僚2
 次の問いには、どうお答えしたら良いのか…
 「小泉政権時には中間層の所得が低下し、同時に相対的貧困率も低下しているが、押し並べると中間層の所得低下に伴って相対的貧困率は上昇している」
ということですね?で、それは貧困層の所得が中間層の低下より激しく落ちているからだ、と。
 ↓を見て下さい。

貧困の意味を理解もしない、説明もしないマスゴミと閣僚2
(引用元:http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/4663.html

 低所得層の年収は94年をピークに右肩下がりになっていますが、01年頃からほぼ下げ止まっていることが分かります。
 一方、所得格差の推移グラフは05年以降、上昇しています。
 つまり、貧困層の所得低下ではなく、高所得層、もしくは中間層以上の層で年収上昇が起きているため、相対的貧困率が上昇しているもの、と読み取れそうです。
 ゆうくんパパ様が、どこからデータを持ち出して「貧困層の所得が中間層の低下より激しく落ちているから、(相対的)貧困率が増えている」とおっしゃるのかは不明ですが、わたしの収集したデータでは、そのような関係は見受けられませんでした。
 もしよろしければ、根拠を示していただけますか?

 また、「絶対的貧困とは違う」と言いつつ、「少なくとも『貧困の絶対的増加』といっていいと思う」とは、どういう意味でしょうか?どうも、衣食などにも困る「絶対的貧困」と、統計上の「貧困」を混同なさっている風に見受けられますが、いかがでしょうか?

 >貧困率を問題にしたからといって「社会主義だ」とかいって批判するのは
 別に政府が貧困率をとりあげた事を問題視するつもりはありません。
 そうではなく、マスコミや政府自身が数字が意味するところを理解しようともせず、国民向けの説明もしないまま、「(相対的)貧困率が上昇を続けている!これは旧政権の悪政が原因だ!やっぱり政権交代は正しかった!」などと言わんばかりの姿勢であることを批判しているのです。
 また、このデータを根拠に、子ども手当などの所得再配分政策を強化しようとしていますよね?
 所得再配分政策が悪い、とまでは言いませんが、不景気の出口が見えない現状で、景気対策(パイの拡大)より所得再配分政策(パイの分配)を優先するのは、間違っていると断定します。

 旧社会主義国は、強権を使って富裕層から富を奪い、労働者に分け与えました。
 (一部党員を除き)平等にはなりましたが、結果として国富は遅々として増えず、西側陣営に水をあけられる結果となったのは、周知の通りです。
 日本は97年以降、一時期を除いてGDPは低下傾向にあります。その中で、パイ(GDP)拡大より分配を優先するなら、手にするパイも年々小さくなるのは明らかでしょう。
 今、民主党政権がやろうとしているのは、まさにそういう事で、これは旧社会主義国のやり方に通じる部分があるのです。だから、「みんな貧乏で平等な社会主義国を目指」している、と批判したのです。
(あと、国民の言論の自由を奪おうとしているのも、社会主義国的ですよね)


同じカテゴリー(経済)の記事画像
TPP参加論は「いつか来た道」
財務省の暴走を止めるのに、小沢派と組めるか?
民主憎けりゃ財政出動まで憎し?
同じカテゴリー(経済)の記事
 TPP参加論は「いつか来た道」 (2011-01-23 09:09)
 財務省の暴走を止めるのに、小沢派と組めるか? (2011-01-16 10:11)
 民主憎けりゃ財政出動まで憎し? (2009-12-09 22:32)
 財政は”発散”させろ! (2009-11-14 02:34)
 足元の問題を放置するのがお得意!?な人々 (2009-11-01 23:54)
 地方を殺すな! ~高速無料化時代の地方再生策 (2009-09-26 03:07)

Posted by なまくら at 03:03│Comments(2)経済
この記事へのコメント
私のコメントに丁寧なご返事ありがとうございます。
あまり、ご返事を期待していなかったこともあって、多少、過激な言い方をしたことをお詫びしておきます。

最初の私の質問は、データ元にした方がいいのだと思いますが、「所得格差が少ないために貧困率が高い」という国を探すのは、難しいと思いますよ。
私は、日本がアメリカなどに比べて所得格差が少ないことを否定するつもりはありません。
ヨーロッパでも、移民の多いイタリアやフランスなどでは、賃金格差は日本より大きいと思います。
ところが、可処分所得で測った貧困率だと、日本の方が高い。
これは、賃金格差だけでは説明できないことだと思います。

低所得者の所得が2001年ころから下げ止まっているというデータを示していただきました。
ただ、このデータは家計調査の全世帯についてのデータです。
97年以降、勤労者の賃金などの所得が全体として低下した中で、年金生活者については物価マイナススライドが停止されていたこともあり、所得低下が勤労者ほど激しくなかったことが、全世帯のデータには反映しているような気がします。
つなみに、家計調査の勤労者世帯のデータで調べてみたところ、物価変動を調整した実質所得で、2000年を100としたとき、2006年には平均値が95.7、中間層にあたる第Ⅲ分位が93.5、第Ⅰ分位は92.6%でした。
やはり、2000年代に入ってからの所得低下は、低所得者の方が大きいような気がします。
なお、これは「2人以上世帯」に関する統計です。
単身者の統計は2002年以降しかありませんが、同様の傾向が、見られました。
なお、2003年から2006年にかけて、2人以上勤労者世帯の平均所得は、わずかですが上昇しています。
しかし、第Ⅲ分位の平均所得は減っています。
この3年間に、高額所得者の所得は増えたのだと思いますが、それが中央値を引き上げるほどの影響は与えなかったのだと思います。
現に、貧困率測定に使われた中央値は、この3年間にも低下しています。
「貧困層の所得低下ではなく、高所得層、もしくは中間層以上の層で年収上昇が起きているため、相対的貧困率が上昇している」というのは、難しいのではないでしょうか。

貧困率のデータは、家計調査ではなく、国民生活基礎調査のデータを用いていますので、実際に使われたデータや、世帯業態別、年齢別の貧困率などを詳しく公表させないと、正確な議論はできないような気がします。

なお、現政権の政策について、懸念を表明されている点については、若干違う角度からですが、同感するところはあります。
私は、所得再分配政策は必要だと思います。
いま、アメリカでもイギリスでも、庶民には減税を行う一方で、富裕層の所得税率を引き上げるなどの政策をとっています。
景気の動向には注意しつつも、日本でもこうした政策は必要だと思うのです。
しかし、現政権は、富裕層には負担を求めることはなく(むしろ、富裕層でも子供がいれば手当を配る)、配偶者控除や扶養控除の廃止、たばこ税の増税(健康面での配慮は必要ですが、たばこ増税が消費税以上に逆進性が高いことも事実です)など、中間層や低所得者への増税によって、その「所得再分配」政策の財源をつくろうとしています。
たしかに、貧困率だけを考えれば、富裕層に増税するより、中間層に増税して可処分所得の中央値を引き下げた方が、効果的です。
しかし、それは貧困率の「見かけの改善」にすぎません。
こうした意味で、貧困率を「唯一絶対の政策指標」にするようなことには、私も懸念を抱いております。
Posted by ゆうくんパパ at 2009年11月04日 14:20
確かに、統計があくまでマクロな無味乾燥なデータの集合体であるため、そこから必要とするソースを探し当てるのは非常に苦労しますね。
使用するデータが多いほど、真実に近づくとは思いますが、逆に何を調べていたか、わけわからなくなったり・・・

>私は、所得再分配政策は必要だと思います。
わたしも、そう思いますよ。ただし、それを優先するのは、景気の良い時にしてほしい、と思っているだけです。
企業や家計がせっせと借金を返済するために不況になっているのだから、そんな時期に減税などの所得再配分政策を強化しても、借金返済や貯蓄に回るだけで、消費刺激効果が少ないと思うからです。
それよりも、消費・投資拡大が優先されるべきであると思うので、むしろ「カネを使わせる政策」を考える方が先決と言えるでしょう。
その時は中間層以下の相対的貧困率は上昇するかもしれませんが、GDPが上昇するにつれてパイ拡大の恩恵にあずかるでしょう。というか、中間層以下に増税するわけではないので、可処分所得を政策的に減らす方向には向かないと思います。
そういう意味で、貧困率を「唯一絶対の政策指標」にするようなことには、わたしも懸念を抱きます。
Posted by なまくらなまくら at 2009年11月05日 01:11
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

削除
貧困の意味を理解もしない、説明もしないマスゴミと閣僚2
    コメント(2)