2013年01月20日

第1章 ポーツマス会議 6.秘密会議

 18日午前10時、第7回会議が開催された。

 小村はウィッテに、前夜作成した覚書を手渡した。そこには、樺太割譲と償金支払に応じるならば、第10条の抑留艦艇引き渡しと第11条の海軍力制限を撤回する、と書かれていた。

 ウィッテは驚いて顔を上げると、改まった口調で小村に話しかけた。

 「両国全権のみで秘密に話したいことがあります。書記官等に席を外させ、秘密会を開きたい」

 小村は受諾した。両国全権の4名を残して全員が退室すると、会議室は静寂に包まれた。

 小村は、ウィッテが話を切り出すのを待った。俄然、期待が高まる。

 「わたしは本国政府から、サハリン割譲と償金支払については絶対に受け入れてはならぬ、と厳命を受けています。しかし、このままでは会議は決裂以外にありません。わたし個人としては、是非講和を成立させたいと願い、打開案を求めようと思っています」

 「わたしも講和を成立させたいと願っています」

 小村はウィッテに同調し、続く言葉を待った。

 「・・・・・・妙案が無くて、困っています。まず、償金に関しては、我が国は完全に敗北した訳ではありませんから、絶対に応じられません。ただし、サハリンに関しては、もしかしたら妥協の道があるかも知れません」

 ウィッテはそう言うと、前屈みになって小村の目を見据えた。

 「あくまでわたし個人の考えですが、サハリンを南北に分割領有する案はどうでしょうか?北部は我が国がアムール川一帯を防衛するのに必要ですが、南部は漁業資源が豊富なので、日本が領有すれば都合が良いでしょう。どうでしょうか?」

 「樺太に対する国民の愛着は深いものがあります。しかも、現在我が軍が占領しています」

 小村は無表情で答えた。ウィッテの顔が曇ったのが分かったが、一呼吸置いて続けた。

 「しかし、ロシアの事情も同情出来るので、貴国が一歩譲る気持ちがあるのであれば、我が方も一歩譲歩しないでもありません。わたし個人の考えを述べさせていただくならば、樺太を分割して北半分をロシアに返還する場合、それ相当の代償を支払ってもらわねばならない、と考えています」

 「一理あります」

 「その金額は、少なくとも12億円以下では日本政府も承諾しないと思われます。また、樺太を分割するとしたら、境界線は北緯50度が適当であろうと思われます」

 「境界線については同意出来るが、代償については本国政府が承諾しないでしょう」

 ウィッテは答えたが、話し合いの末、代償案に合意するならば、日本側と妥結に達する旨を本国に伝えることを約束した。





 昼食を挿んで協議を重ね、午後2時半、秘密会議は終わった。その後、両国書記官も加わった本会議が再開され、第12条の漁業権について話し合われたが、対立点も殆ど無く短時間で妥結し、講和条件全ての討議が終了した。

 残すのは21日月曜日の最終会議のみであったが、ここでウィッテは1日延期を提案し、小村もそれを承諾して、午後4時半に散会した。

 ホテルに戻った小村達は、早速、妥協案について本国の指示を仰ぐ電文を打った。

 翌朝、ロシア側副全権のローゼンはルーズベルトからの電報を受け、ホテルを発った。同じ頃、金子も小村からルーズベルトに会うよう指示され、ローゼンと鉢合わせしないよう21日に大統領の別荘を訪れた。

 ルーズベルトは、ローゼンとの会談が不調に終わったことを憮然とした顔付きで金子に話したが、金子から前日の秘密会議で出た妥協案を聞かされ、眼を輝かせた。

 「日本側の大きな譲歩だ。ロシア皇帝に、妥協案を受諾するよう勧告しよう」

 ルーズベルトは、日本側の妥協案を全面的に支持し、また、金額面のさらなる譲歩も準備するよう、金子に伝えた。
 
 最終会議は、ルーズベルトの調停が入ったことで更に1日延期され、23日に変更された。

 その日の内に、まずは日本側に本国から至急電が届いた。


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Posted by なまくら at 08:17│Comments(0)創作
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