2014年12月26日

第1章 ポーツマス会議 14.戦闘再開か?

 翌日の米紙上には、「講和会議決裂」の見出しが躍っていた。

 どの新聞も、戦闘再開となった場合の日露双方の出方や被害等の予測記事を掲載している他、会議決裂について、頑ななロシアを責める新聞があれば、ロシアを挑発し、尊厳を傷つけた日本を責める新聞もあった。また、自国での講和会議を斡旋しておきながら何の調停努力もしなかったルーズベルト大統領に対する批判記事も散見された。

 このような最新のアメリカ世論は駐米公使を通じ、日本にいる桂の下にも届けられた。

 「見て下さい。どの新聞も『日本は少なくとも沿海州全部を占領するだろう』と書いてあるらしいですぞ」

 桂は閣僚達にそう言って高平からの電文を渡した。

 「勝手なことばかり書きよって…新聞の商業主義は万国共通ですな。煽るだけ煽って、責任は取らなくて良いのだから、気楽な商売です」

 寺内陸相は苦笑しながら答えたが、すぐに表情は強張った。

 「しかし、拙いことになりました。ロシア軍の精鋭部隊に対し、我が方は兵員も弾薬も補充が追い付いていません。これではハルビン占領どころか、既占領地の防衛すらままなりませんぞ」

 山縣も苛立ちの表情を見せた。

 「小村君は一体どういうつもりだ?ウィッテが償金放棄と引き替えに樺太全島割譲を提案してきた時点で交渉をまとめておけば、こんなことにはならなかった。欲を出して東清鉄道の全線放棄など迫るものだから、かえってロシアの反発を招いたではないか。こうなったら、交渉を決裂させた小村君には即刻辞表を出させ、高平君を立てて会議再開を請うしかないのではないか」

 「そんな事をしたら、益々ロシアが増長するに決まっているじゃないですか」

 「では、この難局をどうやって乗り切れと言うのだ!いくら海軍が制海権を確保しても、我が方には輸送出来る弾薬も兵員も無いのだぞ!」

 山縣は山本海相を一喝し、返す刀で桂にも食ってかかった。

 「大体、ハルビンまでの南部支線取得を再交渉せよ、と命じたのは桂君ではないか!まさか、小村君には本線の放棄要求まで指示していたのか!?」

 「いえ、そこまでは」

 桂は首を横に振り、続けた。

 「本線放棄の要求は小村君の独断ですが、なかなか巧妙な提案だったのではないでしょうか。巧くいけば、向こう30年間はロシアの南下を恐れずに済みます。まあ、会議が決裂してしまっては元も子もありませんが、きっと小村君は打開策を考えている筈です。あっさり交渉決裂に至らせたことが、何よりの証拠です」

 「随分と小村君を買い被っているようだが、確証はあるのかね?ルーズベルト大統領の調停を考えているとするならば、とんだ期待外れになるぞ。ロシア皇帝は既に誰の意見も聞く耳持たなくなっているようだからな」

 睨め付ける山縣に、桂は涼しい顔で答えた。

 「しかし、兵站と軍資金の補充が出来なくなれば、流石のニコライも調停に応じる他ないでしょう」

 「何か、策があるのか?」

 訝りながら訪ねる伊藤に、桂は不適な笑顔を見せた。

 「見ていて下さい。数日後には、ロシア側から会議再開を請うてくる筈です」


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Posted by なまくら at 23:27│Comments(0)創作
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