2013年04月27日
第1章 ポーツマス会議 8.閣議(2)
色々忙しくて更新を怠っていたら、最後の投稿から2ヵ月以上が経過してしまいました。TPPや選挙制度など、物申したいことは色々あるのですが、取り敢えず静観を続けたいと思います。
しかし、2ヵ月も放ったらかすと書き方を忘れてしまいますね(^_^.)
という訳で再開です。(またすぐに止まるかもしれませんが・・・・・・)
第1章 ポーツマス会議 8.閣議(2)
講和の方針は固まった。しかし、何をどこまで妥協して講和をまとめるのか、議論は容易にはまとまらなかった。
曾禰大蔵大臣は、あくまで償金を要求するよう求めた。
「戦後の財政立て直しを考えると、償金を放棄するには忍びありません。12億円が無理でも8億円、いや6億円までなら譲歩出来るのではないでしょうか」
「もし6億以下、あるいは代償金の支払い自体ロシア皇帝が認めない場合は?」
桂の反問には、海軍大臣の山本権兵衛が答えた。
「結論は先ほど出た筈です。戦争継続は不可能、よって、その場合は償金を放棄すべきであることは当然です」
不満そうな顔付きの曾禰に対し、山本は一喝した。
「我々は、金銭を得る為に戦争をしたのではない!」
山縣や寺内正毅陸相も同調したので、曾禰は反論出来なかった。
ここに、償金放棄を含む大幅譲歩の方針が決定した。
次いで、議論は樺太割譲問題に移った。
「樺太はあくまで求めていくべきだと、予は考えます。樺太は現在、我が軍が完全占領を果たしている上、歴史的にも日本領であったことは疑いない地です。また、戦勝国として割地を要求するのは当然であります」
償金放棄を主張した山本も、樺太は譲らなかった。
「ロシア皇帝は、一握りの土も日本に渡してはならぬ、と厳命しているそうです」
桂は冷静に、ロシア国内の情勢について意見を述べた。
「ロシア国内の混乱は激化しており、革命の兆しすらあります。しかし、ロシア政府内部では日増しに強硬意見が高まっており、講和会議打ち切りの意見が大勢を占めているそうです」
「予が得た情報も、ほぼ同じだ。真に憤慨に堪えぬが、樺太割譲を要求することは、戦争継続に直接繋がる。講和の成立を実現させる為には、この問題においても大譲歩をする以外に無い」
山縣も同調したが、山本は尚も割地に拘った。
「山本さん、貴方は割地を譲るべきではないとの考えだが、北海道と宗谷海峡の防衛以外、樺太を得る際立った利点はあるのですか?」
桂はそう言い、諭すように続けた。
「望みのない交渉を幾度にも亘って行った挙句、償金も領土も放棄したとなると、我が国が受ける外交上の失点は計り知れません。戦争は外交の継続でありますが、外交もまた、戦争の継続であります。ロシアは、例え戦場で敗北しようとも、その後の交渉で如何様にもなる、と考えるのは必至。即ち、講和が成立したとしても、その実行は覚束ず、事実上講和条約は空文に帰するでありましょう。そうなれば、戦後の我が国の立場は著しく不利となり、不平等条約の改定などの課題処理に少なからぬ悪影響を与えるでしょう」
「・・・・・・確かに、閣下の仰るとおりです」
「ロシア海軍がほぼ壊滅した今、樺太を安全保障の観点から手に入れる必要性は薄れました。冷静に考えるならば、森林開発くらいしか経済的恩恵を受けない土地の取得に、継戦の覚悟を持って挑むべきでしょうか。予は交渉の原則から言って、妥結の見込みの無い要求は早期に取り下げるべきだと考えます」
「埒のあかない要求は可能な限り早期に撤回し、外交上の失点を阻止する、桂君の言うとおりだと思う」
伊藤も同調し、ついに山本も折れた。
会議室に緊張した空気が広がった。皆、桂が重大決心をした上での発言を待った。
「ロシア政府の正式回答では、代償金案は恐らく拒否される筈です。その場合は速やかに見切りをつけて要求を撤回するよう、小村君に指示するつもりです。次回会議では樺太の割譲について全力を注ぐが、北半分は放棄もやむなし、南半分についてもロシア側が断固応じない場合は、これもまた断念する他ないでしょう」
予想された答えとはいえ、皆、落胆の色を隠せなかった。
「余りに・・・・・・余りに屈辱的な内容ですが、致し方ありません。世界最強の陸軍国と渡り合って競り勝ち、12ヶ条の要求の内、8ヶ条まで呑ませたのだから、これで良し、とすべきでしょう」
陸軍大臣の寺内正毅が、涙ながらに発言した。
「但し、それで簡単に講和を成立させてしまっては、我が国の継戦能力を疑われてしまいます。最終会議はあと1回延ばし、最後に、妥結済みの案件についてロシアとの再交渉を指示するつもりです」
桂の意外な提案に、全員の視線が彼に集中した。
しかし、2ヵ月も放ったらかすと書き方を忘れてしまいますね(^_^.)
という訳で再開です。(またすぐに止まるかもしれませんが・・・・・・)
第1章 ポーツマス会議 8.閣議(2)
講和の方針は固まった。しかし、何をどこまで妥協して講和をまとめるのか、議論は容易にはまとまらなかった。
曾禰大蔵大臣は、あくまで償金を要求するよう求めた。
「戦後の財政立て直しを考えると、償金を放棄するには忍びありません。12億円が無理でも8億円、いや6億円までなら譲歩出来るのではないでしょうか」
「もし6億以下、あるいは代償金の支払い自体ロシア皇帝が認めない場合は?」
桂の反問には、海軍大臣の山本権兵衛が答えた。
「結論は先ほど出た筈です。戦争継続は不可能、よって、その場合は償金を放棄すべきであることは当然です」
不満そうな顔付きの曾禰に対し、山本は一喝した。
「我々は、金銭を得る為に戦争をしたのではない!」
山縣や寺内正毅陸相も同調したので、曾禰は反論出来なかった。
ここに、償金放棄を含む大幅譲歩の方針が決定した。
次いで、議論は樺太割譲問題に移った。
「樺太はあくまで求めていくべきだと、予は考えます。樺太は現在、我が軍が完全占領を果たしている上、歴史的にも日本領であったことは疑いない地です。また、戦勝国として割地を要求するのは当然であります」
償金放棄を主張した山本も、樺太は譲らなかった。
「ロシア皇帝は、一握りの土も日本に渡してはならぬ、と厳命しているそうです」
桂は冷静に、ロシア国内の情勢について意見を述べた。
「ロシア国内の混乱は激化しており、革命の兆しすらあります。しかし、ロシア政府内部では日増しに強硬意見が高まっており、講和会議打ち切りの意見が大勢を占めているそうです」
「予が得た情報も、ほぼ同じだ。真に憤慨に堪えぬが、樺太割譲を要求することは、戦争継続に直接繋がる。講和の成立を実現させる為には、この問題においても大譲歩をする以外に無い」
山縣も同調したが、山本は尚も割地に拘った。
「山本さん、貴方は割地を譲るべきではないとの考えだが、北海道と宗谷海峡の防衛以外、樺太を得る際立った利点はあるのですか?」
桂はそう言い、諭すように続けた。
「望みのない交渉を幾度にも亘って行った挙句、償金も領土も放棄したとなると、我が国が受ける外交上の失点は計り知れません。戦争は外交の継続でありますが、外交もまた、戦争の継続であります。ロシアは、例え戦場で敗北しようとも、その後の交渉で如何様にもなる、と考えるのは必至。即ち、講和が成立したとしても、その実行は覚束ず、事実上講和条約は空文に帰するでありましょう。そうなれば、戦後の我が国の立場は著しく不利となり、不平等条約の改定などの課題処理に少なからぬ悪影響を与えるでしょう」
「・・・・・・確かに、閣下の仰るとおりです」
「ロシア海軍がほぼ壊滅した今、樺太を安全保障の観点から手に入れる必要性は薄れました。冷静に考えるならば、森林開発くらいしか経済的恩恵を受けない土地の取得に、継戦の覚悟を持って挑むべきでしょうか。予は交渉の原則から言って、妥結の見込みの無い要求は早期に取り下げるべきだと考えます」
「埒のあかない要求は可能な限り早期に撤回し、外交上の失点を阻止する、桂君の言うとおりだと思う」
伊藤も同調し、ついに山本も折れた。
会議室に緊張した空気が広がった。皆、桂が重大決心をした上での発言を待った。
「ロシア政府の正式回答では、代償金案は恐らく拒否される筈です。その場合は速やかに見切りをつけて要求を撤回するよう、小村君に指示するつもりです。次回会議では樺太の割譲について全力を注ぐが、北半分は放棄もやむなし、南半分についてもロシア側が断固応じない場合は、これもまた断念する他ないでしょう」
予想された答えとはいえ、皆、落胆の色を隠せなかった。
「余りに・・・・・・余りに屈辱的な内容ですが、致し方ありません。世界最強の陸軍国と渡り合って競り勝ち、12ヶ条の要求の内、8ヶ条まで呑ませたのだから、これで良し、とすべきでしょう」
陸軍大臣の寺内正毅が、涙ながらに発言した。
「但し、それで簡単に講和を成立させてしまっては、我が国の継戦能力を疑われてしまいます。最終会議はあと1回延ばし、最後に、妥結済みの案件についてロシアとの再交渉を指示するつもりです」
桂の意外な提案に、全員の視線が彼に集中した。
第2章 日露戦の善後 3.鉄道王の来日
第2章 日露戦の善後 2.騒擾(2)
第2章 日露戦の善後 1.騒擾(1)
第1章の結びに代えて
第1章 ポーツマス会議 18.最終会議
第1章 ポーツマス会議 17.ウィッテ陥落
第2章 日露戦の善後 2.騒擾(2)
第2章 日露戦の善後 1.騒擾(1)
第1章の結びに代えて
第1章 ポーツマス会議 18.最終会議
第1章 ポーツマス会議 17.ウィッテ陥落
Posted by なまくら at 18:32│Comments(0)
│創作
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