2015年01月02日
第2章 日露戦の善後 1.騒擾(1)
講和成立の知らせは、日本時間の7日朝、桂の下に届いた。
桂は諸元老と閣僚を招集し、伊藤や山縣らが固唾を飲んで見守る中、小村からの電文を一読した。
彼が電文を読み終えると、皆は一斉に立ち上がり、万雷の拍手を沸き起こした。
桂は彼らと手を取り合い、涙を流して喜びあった。
「しかし、今になってみれば、賠償金を獲れなかったのは惜しかったですな」
「何を言う、賠償金を放棄し、国際世論を味方につけたからこそ、講和を結べたのではないか」
「左様、ロシアも我が国同様、外国からの借金で戦争をしていた以上、賠償金支払いなど最初から無理だったのだ」
「それにしても、小村君の胆力には恐れ入った。交渉が決裂した時は、日本もこれでお終いだ、と思ったものだ」
「しかし、樺太も放棄せずに、うまくやったものだ。彼の活躍は10個師団、否、20個師団に匹敵しますぞ」
好き勝手なことを言うのは新聞も閣僚も同じだな、と内心苦笑しながら口々に雑談をする閣僚達を見ていた桂は
「本当に厳しいのはこれからですぞ」
と言って閣僚達を見渡した。
「まずは莫大な額に膨れ上がった戦時外債を整理し、財政の立て直しを図らなければなりません。次に、韓国における支配権確立と満洲の処理、国内にも戦時下に繰り延べになっていた諸案件が山積みです。しかし、何よりも急務なのは・・・」
「民衆の不満を抑えることだな」
伊藤がすかさず口を挿むと、桂は大きく頷いた。
「既に講和反対の集会が各地で起きています。講和が締結される13日には、更に大規模な集会が開かれるでしょう。暴動が起きる可能性もあります。警察は東京市を中心に厳戒態勢で挑んでほしい」
「各警察署には、署と各省及び首相官邸の警備を命じましょう」
「それだけでは足りません。外国人関係施設、とりわけ教会の警備も必要です。一部のキリスト教布教者が、『ロシアが償金を支払わずに済んだのは、神がロシアを救い給うたからだ』などと触れ回り、人々の神経を逆撫でしているそうです。教会が襲撃されたとあっては、人種戦争をひたすら否定してきた金子君らの努力が水泡に帰します。これだけは防がなければなりません。あと、小村君の家族も警護する必要があるでしょう」
「必要とあらば、陸軍も動かそう」
山縣の提案に、桂は首肯した。
「是非、お願いします。最悪の場合は、陛下に戒厳の勅令をお願いする必要があるかも知れません」
戒厳、の言葉に一同がざわつき始めた。
「戒厳令を敷くとなると、かなり物々しいな。相当の覚悟が必要になるぞ」
「伊藤さん、ロシア国内の騒擾がどのように諸外国に伝わっているか、考えてみて下さい。『血の日曜日事件』以降、ロシア公債の価格は暴落し、ロシアは外債の調達が困難になりました。今、日本で同じような騒擾が起きて諸外国の信頼を無くせば、二度と海外から資金調達が出来なくなるかもしれません。日本はロシアと違い、節度をわきまえた国家と国民であることを示す必要があるのです」
桂の説明を聞き、伊藤は分かった、と答えた。
桂は諸元老と閣僚を招集し、伊藤や山縣らが固唾を飲んで見守る中、小村からの電文を一読した。
彼が電文を読み終えると、皆は一斉に立ち上がり、万雷の拍手を沸き起こした。
桂は彼らと手を取り合い、涙を流して喜びあった。
「しかし、今になってみれば、賠償金を獲れなかったのは惜しかったですな」
「何を言う、賠償金を放棄し、国際世論を味方につけたからこそ、講和を結べたのではないか」
「左様、ロシアも我が国同様、外国からの借金で戦争をしていた以上、賠償金支払いなど最初から無理だったのだ」
「それにしても、小村君の胆力には恐れ入った。交渉が決裂した時は、日本もこれでお終いだ、と思ったものだ」
「しかし、樺太も放棄せずに、うまくやったものだ。彼の活躍は10個師団、否、20個師団に匹敵しますぞ」
好き勝手なことを言うのは新聞も閣僚も同じだな、と内心苦笑しながら口々に雑談をする閣僚達を見ていた桂は
「本当に厳しいのはこれからですぞ」
と言って閣僚達を見渡した。
「まずは莫大な額に膨れ上がった戦時外債を整理し、財政の立て直しを図らなければなりません。次に、韓国における支配権確立と満洲の処理、国内にも戦時下に繰り延べになっていた諸案件が山積みです。しかし、何よりも急務なのは・・・」
「民衆の不満を抑えることだな」
伊藤がすかさず口を挿むと、桂は大きく頷いた。
「既に講和反対の集会が各地で起きています。講和が締結される13日には、更に大規模な集会が開かれるでしょう。暴動が起きる可能性もあります。警察は東京市を中心に厳戒態勢で挑んでほしい」
「各警察署には、署と各省及び首相官邸の警備を命じましょう」
「それだけでは足りません。外国人関係施設、とりわけ教会の警備も必要です。一部のキリスト教布教者が、『ロシアが償金を支払わずに済んだのは、神がロシアを救い給うたからだ』などと触れ回り、人々の神経を逆撫でしているそうです。教会が襲撃されたとあっては、人種戦争をひたすら否定してきた金子君らの努力が水泡に帰します。これだけは防がなければなりません。あと、小村君の家族も警護する必要があるでしょう」
「必要とあらば、陸軍も動かそう」
山縣の提案に、桂は首肯した。
「是非、お願いします。最悪の場合は、陛下に戒厳の勅令をお願いする必要があるかも知れません」
戒厳、の言葉に一同がざわつき始めた。
「戒厳令を敷くとなると、かなり物々しいな。相当の覚悟が必要になるぞ」
「伊藤さん、ロシア国内の騒擾がどのように諸外国に伝わっているか、考えてみて下さい。『血の日曜日事件』以降、ロシア公債の価格は暴落し、ロシアは外債の調達が困難になりました。今、日本で同じような騒擾が起きて諸外国の信頼を無くせば、二度と海外から資金調達が出来なくなるかもしれません。日本はロシアと違い、節度をわきまえた国家と国民であることを示す必要があるのです」
桂の説明を聞き、伊藤は分かった、と答えた。
第2章 日露戦の善後 3.鉄道王の来日
第2章 日露戦の善後 2.騒擾(2)
第1章の結びに代えて
第1章 ポーツマス会議 18.最終会議
第1章 ポーツマス会議 17.ウィッテ陥落
第1章 ポーツマス会議 16.会議再開
第2章 日露戦の善後 2.騒擾(2)
第1章の結びに代えて
第1章 ポーツマス会議 18.最終会議
第1章 ポーツマス会議 17.ウィッテ陥落
第1章 ポーツマス会議 16.会議再開
Posted by なまくら at 08:57│Comments(0)
│創作
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